台風一過の秋晴れにはならず、まだまだ台風の名残の風が吹いており返し雨とでも言うのか時雨ている伊賀の奥である。極めて大型の台風18号の襲来に備えて昨夜は常より早く寝た。一度目が覚めた時は激しい雨の音が聞こえていた。その後死んだように眠ったらしい。朝から問うてくれた人が凄い風やったなと言ってくれても、返答に困った。とにかく安堵、安堵と言ったところである。老いた母と障害者の二人暮らし、周囲の人に心配をかけている。何もなかったかと電話をくれる人もあり感謝をせねばと思った。それにしても風って地形によって大きく違うようだ。私の住むところは東に嶺が連なっており、嶺より吹き下ろす風は凄く強い。普段から雨降る前などは台風のような風がよく吹くのである。それが今回は庭の木の葉や小枝もほとんど散らばっていないのだ。なんか不思議な気がしている。被害がでたらと不安で仕方なかったが、過ぎてみれば何もなかった。本当に良かった。
颱風のあとの糠雨目に染むる
酒少し過ごし台風の去るを待つ
颱風過口開けて寝て笑はるる
死ぬごとく寝て台風の通過待つ
熟寝より覚めれば颱風一過なり
野分あと女のまなこ優しかり
散らばれる木の葉の匂ふ野分あと
颱風のあと諳んずる師の一句
野分あと母は猫抱きうた唄ふ
老い母の畑をめぐりぬ野分後
軋む戸を開くる女や野分あと
颱風過やうやく晴れて虹の出し
俳句には台風と野分と言う季語がある。切羽つまれば良い句も出来るだろうが、なかなか台風などというものを句にするのは難しい。慰めに過ぎない。昔は野分(のわき)と言われていた。野の草を吹き分けるほどの風と言う意味である。野分と言うとどことなくおとなしい感じ、大きな被害が出るほど強いのが台風と言えよう。私の亡き師、澤木欣一の句に、「颱風一過女がすがる赤電話」というのがある。想像の域が限りなく広がる一句であり、私の好きな句の一つである。停電ぐらいは覚悟していた私、ベッド、エアーマット、エアコン、電話機、パソコンなど電気なければ無用の物であるから、おとなしく寝て居ようと思っていたが、大したことなく感謝して過ごす台風一過である。読者のみな様の中で被害に遭われた方には心よりお見舞い申し上げたい。