三月ももう七日である。昨日は啓蟄(けいちつ)、二十四節季の一つで春暖かくなると、いろいろな虫が穴から這い出しくるという日である。様々な動物も冬眠から醒めると言われている。虫たちも雨に濡れて驚いているかもしれない。風邪をひくなと言ってやりたい。ここ数日の雨模様には気分が沈みがちである。それでも、二月から三月へ、アッと言う間に過ぎてしまった。その間、総合誌への俳句を作るのに躍起となっていたように思う。わずか12句の作品を考えるのに往生してしまった。やはり、総合誌となると読者も多く軽率な句は出せない。佳作でなければと思ってしまうから焦るのであるが。やっと目途がついた。また、二月の末にある句集の鑑賞をせよと師に仰せ付かった。一冊の句集を読み鑑賞し、評することはなかなか至難である。自分の心惹かれた句について書けば良いのだが、四百字詰め原稿用紙10枚ぐらいの量は結構時間を費やすものである。締め切りが十日とゆっくりしていられない。まあなんとかなりそうであり、ちょっと気分転換のつもりでこれを更新することにした。俳句はあまり力みのないものであり、気楽に作ったものである。
雛の日や男の漬けし菜をもらふ
啓蟄のかめ虫臭き箪笥かな
啓蟄や菜虫に女声上ぐる
ふところに婆の仕舞ひし紙雛
桃の日や堆きもの土竜みち
しらじらと青みさしたり雛の顔
耳の日やわが耳うすく生まれつき
耳の日や長寿の四人大き耳
雛の日の朝のごはんに生たまご
髪を撫ぜくちびるに触れ雛仕舞ふ
水音のしてきて霞晴れにけり
食卓の卵の揺るる春の雷
うさぎ抱く少女を包む春夕焼
手で揉んで乳吸ふ赤子山笑ふ
浮き雲を笑ひ飛ばせり向かひ山
楢山にささやきにけり春の星
春眠の中に入り来て猫鳴けり
野遊びの婆を呼んでも応へなし
昨日は市の障害者福祉大会に参加してきた。伊賀市になり一つの障害者連合会になって初めての福祉大会であった。市にしては会場も小さく、出席者も少ないと思ったのは私だけか。大会の後は村松智広氏の講演を一時間聴いてきた。人権の講演を聴いたのは初めであり、その笑いを交えた話し方に感化された。こういう類の話は固くなり心を開けて気軽に聴くことができないものだが、彼の話は上手く、ところどころ泪が出て来そうになるところもあった。私は人権とか差別について興味がないのではない。今までそういう講演を聴く機会がなかっただけである。啓蟄の日にいい話を聴いたと喜んでいる。 梅が満開、やはり暖冬傾向は年々強くなっていくようだ。桜の開花も早いだろう。少し早いが、俳句は先取りを良しとするから、春酣の句を掲載してみます。これらの句を読んで春への思いを募らせて頂きたい。
靄深き野のひとところ蕨狩
卵白の泡もりあがる養花天
水音のしてきて霞晴れにけり
ひと谷は十戸たらずや養花天
はくれんに杣の空澄む暗きほど
桜どきさいたさいたと大正女
燕来てより空を見る癖つきぬ
くちびるに止まる落花を舐めてをり
溜池の薄く濁るや花曇り
卵白の泡盛り上がる養花天
散らばりし雀弾めり花曇り
しきり地をつつく雀や花曇り
岨晴れて宙へ伸びたり郁子の花
「暑さ寒さも彼岸まで」と言われ、「毎年よ彼岸の入りに寒いのは」という句もある。まだまだこの雨が上がれば春本番になるとは限らない。東大寺のお水取りが始る頃には寒さもぶり返すかもしれない。花粉症の方はお気の毒です。読者の皆さま、春の風邪をめされぬように気をつけて下さい。