ショート・ショート 不親切な親切 1/2話
あるところに、すべてが整然と管理された国がありました。
この国の役所には、とても優秀な「自動徴収システム」が導入されていました。国民が稼いだお金や所有する財産からは、申請など一切なくとも、1分1秒の狂いもなく正確に税金が引き落とされていきます。実にスムーズで美しい仕組みでした。
一方で、国から給付金や補助金を受け取るためのシステムは、まったく別の思想で作られていました。それは「申請主義」という名の、果てしない迷宮です。
給付を受け取る権利があっても、国民が自ら書類を出さない限り、国はお金を1円も払いません。そして恐ろしいことに、どのような給付金が存在するのかというリストは、国民に配られることはありませんでした。
役所の窓口へ行き、「何か私にもらえる手当はありますか?」と尋ねても、窓口の役人は親切そうな笑顔でこう答えるだけです。 「どのような制度についてのお問い合わせでしょうか? 具体的な制度名をおっしゃっていただければ、ご案内いたしますよ」
制度の名前を知らなければ、聞くことすらできない。しかし、知らなければ名前を呼ぶこともできない。まさに「卵が先か、鶏が先か」の呪文です。
さらにややこしいことに、尋ね方ひとつで結果が変わりました。 「生活が苦しいのですが」と相談すると、「お気の毒に」と慰められて終わり。 「第3条B項に基づく臨時生活支援特別給付金の要件に該当しますか?」と正しく呪文を唱えて初めて、「あ、それでしたらこちらの用紙です」と奥から書類が出てくるのです。
国民はみな、この厄介な制度に頭を抱え、戸惑っていました。
さて、この国に一人のおじいさんがいました。おじいさんは長年、役所のこのシステムに煮え湯を飲まされ続けてきた男です。
ある日、おじいさんは役所の「手当・給付課」の窓口へ向かいました。 案の定、若手役人がマニュアル通りの笑顔で迎えます。
「いらっしゃいませ。本日はどのような給付金のご申請でしょうか? 制度名をおっしゃってください」
おじいさんはニヤリと笑うと、ポケットから1枚の古いコインと、小さなICカードを取り出しました。
「いやね、今日は申請に来たんじゃないんだ。君たち役所の『税金自動徴収システム』の仕様について、ひとつ確認に来たんだよ」
役人は首をかしげました。 「徴収についてですか? それは隣の税務課の管轄ですが……まあ、徴収でしたら申請は不要で、条件に該当すればシステムが自動で口座から引き落としますよ」
「そうだろ? 条件さえ合えば、本人の確認も申請もなく、勝手に引き落とす。それが徴収システムだ」
おじいさんは身を乗り出しました。
「実はね、私は先月、ある特許をとったんだ。『市民向け・行政サービス相互運用プログラム』というものでね。役所のシステムと市民の口座を直結させるアプリだよ」
「はあ……それが何か?」
「このアプリをスマホに入れておくだけでね、税金が自動引き落としされるのと同じ回路を使って、『市民が受給資格を持つすべての給付金』も申請なしで自動で市民の口座に振り込まれるようになるんだ。なにしろ、徴収できるってことは、国は個人情報をすべて把握してるんだからね。技術的には同じことさ」
役人は顔を青くしました。 「ちょっと待ってください! そんなものを導入されたら、我が国の予算が破綻します! 給付金というのは『申請し忘れる人』がいることを前提に予算が組まれているんですから! そもそも、我が省がそんなプログラムを採用するわけが――」
「ああ、採用なんてしてもらわなくていいんだよ」 おじいさんは楽しそうに言いました。
「国の法律第88条を見てごらん。『行政の効率化に寄与する市民開発のプログラムは、役所の基幹システムが検知した場合、申請の有無にかかわらず、自動的に公的インフラとして組み込まれ、開発者には毎月巨額の特許使用料が自動徴収(振り込み)される』……とある」
役人は慌てて手元の端末で六法全書を検索しました。 書籍の奥底からその条文を見つけ出し、目を見開きました。
「な、なんだこれは……! こんな法律、聞いたことがないぞ!?」
おじいさんはウインクをして言いました。
「無理もない。50年前に制定されて以来、誰もその存在を尋ねなかったから、役所の誰も知らなかっただけの『隠れた法律』さ。さあ、私のアプリはたった今、君たちのシステムに接続された。これからは給付金も自動支給だし、私には毎月特許料が自動で振り込まれる」
役人はガタガタと震えながら叫びました。 「そ、そんなおかしな話があるか! なぜ誰も教えてくれなかったんだ!?」
おじいさんは、かつて自分が窓口で言われ続けた言葉を、最高に親切そうな笑顔で返しました。
「やだなあ、窓口で具体的な法律の番号を言って尋ねてくれないと、こちらからは教えられない決まりなんですよ」