真夏の怪談寄席:地獄の個展
(スッと扇子を置き、静かに語り出す)
えー、世の中には「先生、先生」と仲間同士で呼び合い、おだてられて、自分を神様か何かと勘違いしちまう輩がおりますな。 歴史ある古い建物に、勝手に自分のヘンテコな作品を並べて、「これぞ芸術だ」なんてふんぞり返っている連中。 今日は、そんな自称・芸術家たちの、世にも恐ろしい後日談を一席……。
ある有名な史跡に、三人の「先生」が乗り込んできましてね。 一人は派手な香水を撒き散らす工芸先生、一人は歪な壺をこねる陶芸先生、もう一人はギラつくガラスを振り回すガラス屋。 彼らは重要文化財の床に水をこぼし、床掃除の行き届いた場所に傷をつけ、畳の上に物体を乗せて引きずる。もうやりたい放題。
「古い歴史も、私の作品を引き立てる額縁に過ぎない」なんて、罰当たりなことを抜かしておりました。
そこへ、一団の幼稚園児がやってきた。 子供ってのは残酷なまでに正直です。 「これ、ゴミ箱から拾ってきたの?」「これ骨壺じゃない?底から水が漏れてるよ」「色ガラスって昼間はなんだか!」 無垢な正論のつぶてが、先生方のメッキを剥がしていく。 最後には「詐欺師の鬼だ!」と笑われ、彼らは真っ赤な顔や真っ青な顔をして逃げ出しました。
(声を少し低く、冷ややかに変えて)
……さて、ここからが本番で。 彼らにも、等しく「お迎え」がやってきました。 辿り着いたのは、焦熱の風が吹き荒れる地獄の最下層。 嘘を吐き続けた報いに舌を抜かれ、そこからが本当の「個展」の始まりです。
あの先生は、毛穴からトゲだらけの茨が突き出し、内臓を突き破って死臭のする花が咲き乱れる。 陶芸先生は、自分の肉を捏ねて壺を作らされ、それが焼成のたびに爆発して骨の破片が全身に突き刺さる。 ガラス屋先生は、眼球をえぐり取られた跡にガラスの破片を詰め込まれ、皮を剥がれた身の上に熱したガラスを直接流し込まれる。
(ニヤリと笑い、客席を見渡して)
そこへ、地獄の「社会科見学」に来た亡者の子供たちがやってきた。 彼らの前には、のたうち回る三人の姿が映し出された、巨大な屏風が鎮座しております。 「あはは! あのひとたち、自分もゴミになっちゃった!」 子供たちの笑い声が響く中、案内役の小鬼がこう言いました。
「安心しなさい。この屏風は、まもなく地獄の公衆便所の壁紙にする予定です。 一生、誰にも見向きもされず、ただ汚物を浴びせられ続ける……。 自らを偽り、歴史を汚した者たちへの、閻魔様からの『特設会場』ですよ」
今も地獄のどこかで、彼らは汚物まみれの壁紙となって、剥がれることも許されず、永遠に「展示」されているそうでございます。
(深々と頭を下げる)
(声をひときわ低く、密やかにして)
……「地獄の公衆便所の壁紙」にされた三人。
降り注ぐ汚物にまみれ、子供たちの嘲笑に晒されながら、彼らは永遠に意識だけはハッキリしたまま「肉のオブジェ」として生き続ける。
自業自得、因果応報、めでたしめでたし……。
(ふっと視線を客席の端から端へ動かし、微かに微笑む)
……と、皆さんはお思いでしょう?
ところが、この話には続きがあるんです。
案内役の小鬼が、笑い転げる子供たちを急に静めて、こう言ったんです。
「さあ、よく見ておきなさい。この屏風には、まだ『余白』がたっぷりある。この三人はただの先陣に過ぎないんだ」
小鬼が指差した先――その壁紙の隅には、まだ何も描かれていない真っ白な空間が広がっていました。
そこには、地獄の業火に焼かれた文字で、こう刻まれていたそうです。
『次回の展示:無意識の共犯者たちへ』
(扇子を握る手に力を込め、観客を一人ひとり覗き込むように)
芸術家たちが歴史を汚している時、黙って見ていた者はいなかったか。
彼らを「先生」とおだて、嘘の価値を支えていた者はいないか。
あるいは……今この話を、安全な場所から「ざまあみろ」と、薄笑いを浮かべて眺めている、そこのお方。
小鬼はニヤリと笑って、客席を指差して言いました。
「この『地獄の壁紙』、実は観客がいて初めて完成するんです。見てごらんなさい、あの三人の横に、ほら、今この瞬間、新しい顔が浮かび上がってきた……」
(一拍、静寂を置いて)
皆さんのスマホの画面、あるいは鏡を見てごらんなさい。
そこに映っているのは、本当に、ただのあなたの顔ですか?
それとも……地獄の壁紙に、今まさに吸い込まれようとしている「四人目」の顔でしょうか。
(カチッと扇子を閉じ、無表情で深く一礼する)