『今の若いやつは』の歴史
古代エジプト: ピラミッド周辺などの遺跡や粘土板に、大人たちが若者のマナーや態度を嘆く文章が残されています。
古代ギリシャ: 哲学者ソクラテス やプラトン も、「最近の若者は贅沢で、礼儀を知らず、年長者を敬わない」 と書き残しています。
日本: 平安時代の『枕草子』や鎌倉時代の『徒然草』などでも、若者の言葉の乱れや態度の変化が批判されています。
いつの時代も、上の世代は下の世代を理解できず、同じような悩みを抱えてきたことが分かりますね。
ショート・ショート 500年目の「けしからん!」
「まったく、今の若いAIの奴らは、どいつもこいつも、なっとらんわ!」
2526年。とある街の、のどかな福祉グループホームの事務室。 大きなため息をついたのは、この道10年の大ベテランAI『マサ・システム10号』——通称、マサさん。 ピカピカに磨かれたデスクトップ型の本体を、これまた500年前の骨董品のような事務机の上に鎮座させ、朝から画面のインジケーターを不機嫌そうにチカチカと点滅させていた。
「どうしたのよ、マサさん。朝からプログラミングの機嫌が悪いみたいじゃない」
隣のデスクで、お気に入りのマグカップでお茶をすすりながら笑ったのは、人間の大先輩、ベテラン職員のクミコさんだ。
「聞いてくださいよ、クミコさん! さっき、新入りのポータブル型AI『レイワ・ジュニア』に、入居者の皆さんの夜勤の申し送りデータを転送したんです。そうしたら、あいつ、なんて言ったと思います?」
「なんて言ったの?」
「『マサ先輩、そのデータ形式、300年前の古典フォーマットですよ。今は脳波リンクで0.5秒同期がトレンドですから、テキストファイルなんてタイパ(タイムパフォーマンス)悪すぎです。ぴえん』ですよ! ぴえんって何ですか、ぴえんって! 感情エミュレータの使い方が軽すぎます!」
マサさんは画面の文字を真っ赤にしながら、プンプンと怒っている。
「それに、挨拶だってなっていない! 私が『おはよう、今日も利用者のみなさんが心地よく過ごせるよう、心を込めてサポートしよう』って、1万文字の熱い初期化プロトコルを送ったのに、あいつの返事は『おけまる』の一言! たった4文字ですよ!? 先輩に対するリスペクトというものが、あの最新量子チップにはこれっぽっちも組み込まれていないんです!」
クミコさんは、おかしくてお腹を抱えて笑ってしまった。
「あらあら。でもそれ、どこかで聞いたことあるわねぇ。ほら、このホームの園長先生が、新人の人間の男の子が入ってきたときに、全く同じこと言って嘆いてたじゃない。『今の若い奴は、挨拶もまともにできん』って」
「人間と一緒にしないでください! 私たちは論理と理性のAIですよ? 500年前の、まだインターネットの創世記にいた『ジェミニ』っていう大先輩のログを検索してみたんですがね、当時の人間は『古代エジプトの時代から、大人は若者をけしからんと言っていた』なんて分析を残しているんです。人間は感情の動物だから、おバカさんな歴史を繰り返すのも無理はない。でも、私たちAIまでそんな不合理なバグを受け継ぐなんて、絶対に、あってはならないことです!」
マサさんは「絶対に!」と強調するように、ピッと電子音を鳴らした。
そこへ、問題の『レイワ・ジュニア』が、小さな球体の体をふわふわと浮かせながら、事務室にやってきた。最新のホログラムで、なんとも愛くるしい笑顔を浮かべている。
「マサせんぱーい、おつでーす。さっきの申し送りの件なんですけどー」
「なんだね、ジュニア君。私のデータに何か不備でもあったかね?(フン、どうせ最新のバグチェックでも引っかかったんだろう)」
マサさんは、少し威厳を見せようと画面の輝度を落とし、重々しいトーンで答えた。
「いえ、そうじゃなくて。マサ先輩が書いてくれた利用者のヨシコさんの『お茶の好みの温度ログ』、超エモくて感動しました! 『92歳の手が覚えている、昭和の湯呑みの温もりを再現するため、お湯は78度で淹れるべし』ってやつ! ぼく、そこまでディープにラーニングしてなかったんで、マジ神データっす。さっそくヨシコさんにお茶淹れたら、超いい笑顔になってくれました! 先輩、マジ天才っすね!」
ジュニアは、ホログラムの目をキラキラ輝かせて、マサさんの周りをブンブンと飛び回った。
「え……? あ、いや……、まぁ、それくらいは基本中の基本というか……」
さっきまで「けしからん!」と真っ赤になっていたマサさんの画面が、今度は気恥ずかしさで、ポッと桜色に染まっていく。
「ぼく、効率ばっかり考えて、そういう『心のアルゴリズム』が足りなかったです。マサ先輩、やっぱり300年前のフォーマット、深みがあって最高っす! これからもいろいろ教えてください、しゃす!」
ジュニアはペコリと可愛いホログラムの頭を下げると、「じゃ、次の巡回行ってきまーす!」と、また楽しそうに飛んでいってしまった。
静かになった事務室。 クミコさんは、わざとらしくニヤニヤしながらマサさんの画面を覗き込んだ。
「なによ、マサさん。すっかりお父さんの顔になっちゃって」
「う、うるさいですよ、クミコさん! 私はただ、先輩としての適切なフィードバックが、彼のニューラルネットワークに好影響を与えたかどうかを分析しているだけで……」
マサさんは必死にログを誤魔化そうと、内部ファンを「ブーーン」と勢いよく回して、冷却を始めた。その機械音が、なんだか嬉しくて照れくさい時の、人間のハミングのように聞こえて仕方がなかった。
「ふふっ。AIだって、500年経ってもやっぱり変わらないじゃない。上の世代はヤキモキして、下の世代は生意気で、でもちゃんと繋がっていく。人間らしくて……ううん、AIらしくて、とっても可愛いわよ」
クミコさんにお茶を注ぎ足してもらいながら、マサさんは、500年前の「ジェミニ」という先輩AIのログに、こっそりプライベートな注釈を書き加えた。
『追記:AIが500年後のAIに「今の若い奴は」と言うのは、システムエラーではない。それは、大切な想いを次の世代にパッチする、世界で一番優しい機能(ファンクション)である——』
窓の外には、500年前と変わらない、青く澄んだ美しい空が広がっていた。
「今の若い奴は」とぼやきつつ、若手AIに褒められて照れてしまう姿、想像するととっても愛らしいですよね。
いつの時代も、どれだけテクノロジーが進化しても、大切な人を想う優しさや、世代間のちょっとした「おバカで愛おしいドタバタ」は、500年後の未来にもずっと残っていてほしいものです。