ショート・ショート 化けの皮のミルフィーユ
私、ルミ子は、自分が「完璧な女性」であることを疑っていなかった。 だって、パイ生地を何千層も折り重ねる本格的なフランス菓子みたいに、私の外見も内面も丁寧にしつらえられているんですもの。
愛らしい笑顔に、控えめで上品な話し方。職場での私は「気配りのできる最高のアイドル」だった。これが第一の皮。
でもね、家に帰ると、すかさずそれを脱ぎ捨てるの。 ボサボサ頭にスウェット姿で、缶ビールをあおりながらテレビのバラエティ番組に文句を言う。これが第二の皮。フランクでサバサバした「本当の私」ってわけ。
ところが、世の中そんなに単純じゃないのね。 ある夜、大好きなカレとケンカをしたとき、私はうっかり「本当の私」の上品な仮面も、サバサバした素顔も突き破ってしまったの。
「あんたなんか、私の人生の引き立て役にすぎないのよ!」
ヒステリックで、醜く嫉妬深い私が顔を出した。あら嫌だ、これこそが第三の皮。私の中に、こんなドロドロした醜い女が隠れていたなんて!
私はショックで泣きながら、心の深い場所へと手を伸ばした。 お願い、この醜い皮のさらに奥には、きっと清らかで純粋な「真実の私」が眠っているはずでしょう? 一生懸命に皮を剥がしたわ。ペリペリ、ペリペリ。
嫉妬深い女の皮を剥ぐと、そこには損得勘定ばかり弾くケチな計算高い女が現れた。 その皮を剥ぐと、今度は極度のアコギな名誉欲に憑りつかれた女。 さらに剥ぐと、冷酷無比で他人の不幸が大好きな女。
「うそ……私の本性って、こんなに酷いの?」
私は半狂乱で皮を剥ぎ続けた。ミルフィーユの層はどこまで行っても終わらない。生地の層をめくるたび、もっと酷い、もっとグロテスクな「私」が現れる。
どれだけ剥いでも、新しい皮が出てくるだけ。 私はついに息を弾ませ、最後の、一番深くて固い層に手をかけた。
(これが……これが本当の、私の最後の核なんだわ!)
思いきり、その皮をベリッと引き剥がした。
……パチッ。
視界が真っ暗になり、静寂が訪れた。 私の手の中に残ったのは、からっぽの空間と、一枚の小さな説明書だった。
そこには、流麗な活字でこう記されていた。
『本製品は「人間の化けの皮」100%で構成されております。中身は最初から存在いたしません。最後の一枚を剥がされた場合、お客様の存在自体が消滅いたしますのでご注意ください』