今年は平城遷都1300年ということで、これを記念して奈良市では様々な行事が繰り広げられており、沢山の観光客で賑わい盛り上がりを見せています。公式マスコットキャラクターの「せんとくん」はその容姿から世間を驚かせたこともありましたが、今ではすっかり定着し、物議を醸した事がかえってイベントを周知することにつながったようです。
我々鉄道好きの興味で言えば、この一大イベントに地元鉄道会社がどのような観光客輸送を展開するのかということにあったのですが、実は、奈良県は全国のJR線の中で唯一、特急列車が走行しないことで知られており、これは圧倒的な路線網と列車本数で君臨する近鉄が並行している以上、JRに特急運行の必要がなかったと考えることができます。しかし、今回のイベントで、奈良を発着する初めてのJRの特急列車が期間限定ではありますが誕生し、イベント期間中の6月末まで運行しているとのことで、久しぶりに休日となった土曜日、撮影を兼ねて乗車してきました。 「まほろば」号は土・日・休日限定の1往復運転で、新大阪から梅田貨物線、大阪環状線、関西本線を経由し、途中、天王寺、王寺、法隆寺に停車し奈良まで1時間弱で結んでいます。車両は国鉄特急色の381系の6両編成で、紀勢本線の特急「くろしお号」などに使用される車両です。既に相当年季が入った車両ですが、私好みの懐かしい国鉄型車両であり、沿線では珍しさも手伝って沢山の撮影者を見ることができました。さて、ご利用状況としては、私が乗車した夕方の復路となる新大阪行きには指定席で半分程度、自由席はもう少し多い感じの状態でした。新大阪で新幹線やその他の在来線特急との乗継客を意識しているためどちらかと言えば遠距離利用者の便を図っていると考えられます。乗車促進のサービスとしては、グループ割引の特急料金の設定や記念乗車券の配布、お土産のプレゼント(抽選)があり、奈良〜王寺間では「せんとくん」の挨拶廻りがあるという力の入れようです。 1300年祭のメイン会場がJR奈良駅から離れており(近鉄西大寺駅周辺)、近鉄線が有利との見方もできますが、新大阪に直結できる有利性を生かした今回の臨時運行であり、結果次第では今後の継続運行に望みをつなぐことができるかもしれません。奈良は京都にくらべ観光都市としての立ち位置が弱いイメージがあるため、これを契機にJRと協働して、「万葉まほろば線」と愛称を付けた桜井線沿線の地域ともあわせて活性化できるよう努めるべきではないでしょうか。 ただ惜しむらくは、関西本線を活用した名古屋発の列車設定がなかったことです。JR同士の連携の難しさなどがあるのでしょうが、名古屋〜奈良間を結んだ伝統の急行「かすが号」が廃止されたのみならず、普通列車の亀山接続も最悪の状態であり、すっかり中京方面とは縁が切れた感があります。反面、近鉄は遠回りでも休日限定で名古屋〜西大寺間に臨時特急を運行しており、関西本線が名古屋〜奈良間の最短ルートであるという有利性を生かしていません。今回のイベントをテコにJR西、東海両社が連携し需要の喚起がなされなかったのが非常に残念でなりません。(画像=高架が完成した奈良駅に進入する臨時特急「まほろば号」と表示幕 |