大原行き急行列車は、途中の大多喜駅まで各駅に停まる普通列車の扱いとなります。国鉄時代の演出なのでしょうか、車内アナウンスの前にオルゴール「アルプスの牧場」の曲が流れます。時折途切れる感じも当時のままで、これを聞けただけでも得した気分になります。タイフォン(汽笛)も新型車両にありがちな電気的な音でなく、旅情を誘うというか哀愁漂うというか管楽器が奏でる音のように何とも素敵なのです。
この日は秋晴れの穏やかな日和で、11月とは言え、まだ日中は気温が高く、乗客も多いため、冷房が入っていましたが、キハ28形には冷房電源のための補助エンジンが床下に搭載されているのが特徴で、冷房装置が働いていると、カランカランという国鉄型気動車独特の小気味よい主エンジンの音が聞き取りづらいのが少し残念ではありました。それでも、発進、加速、惰行、減速、制動とそれぞれの走行シーンで重厚なサウンドと振動を感じられるのが何より嬉しく思いました。
車体外観については、実はJR西日本時代に暫くワインレッドに白帯という高岡色という塗色になっていたのですが、いすみ鉄道に移籍する際に、JRの工場でオリジナルの国鉄急行色に戻されました。それから約10年が経ち、全体に退色、錆も出て、ひどいところでは塗膜が剥がれてしまった箇所も見受けられます。数年前から冷房エンジンの不調もあると聞いていました。まさに満身創痍の状態が続いていたのだと感じます。昭和の急行列車やレストラン列車など、今のいすみ鉄道の知名度を全国区に押し上げた立役者であるものの、元来、体力の弱い事業者では、その維持、修繕を行うことは到底叶わなかったということでしょう。しかし、私にとっては、思い入れのあるキハ58・28系列の最期の現役車両、JR線上から姿を消し、もう生きた姿を目にすることは無いと思った矢先、虎の子の1両がまさかのいすみ鉄道移籍となり、今までその姿を見て、乗車できたことは感謝しかありません。遠方でもあるので、11月27日の最終運行までにもう一度来ることは叶いません。今回が本当の現役最後を体感する機会となりました。
列車は、JR外房線と接続する終点の大原駅に到着後、折り返し大多喜行き急行となり、その日の運用は終わりです。以前はもう少し本数がありましたが、延命のためか、車庫がある大多喜を境に上下1往復するのみとなりました。私は、外房線に乗り換えそのまま帰途に就くところ、もう一度、キハ28で大多喜まで戻り、存分に別れを惜しんだあと、いすみ鉄道を後にしました。
引退後の処遇はまだ決まって無いそうです。解体は無さそうですが、唯一残るキハ52形の部品供給をする役割になるのか、国吉駅で動態保存されているこちらも貴重な元JR/国鉄のキハ30形と並んで展示されるのか、はたまた何処かの地方ローカル鉄道に劇的移籍!?なんて、期待半分で発表を待つことにしましょう。