JR西日本が先ごろ、維持困難だとした17路線30線区に含まれた関西本線加茂亀山間(山線)の収支が初めて公表されました。それによると2017〜2019年の平均赤字額は14億6千万円、収支率は14.6%ということで、赤字額はワースト4位であることが分かりました。正直、厳しい数字だろうと予想していましたが、こうして公にされると衝撃的な数字であると感じます。 ワースト3を見ると山陰本線出雲市〜益田間、紀勢本線新宮〜白浜間、小浜線敦賀〜東舞鶴間が並んでおり、都市間を繋ぐ幹線又は亜幹線ともいえる線区です。廃線の危機が囁かれる支線系線区は輸送密度が2ケタ台と低いものの赤字額はそれほどではありません。 この結果を見れば、赤字ワースト上位の線区は、路線延長の長さもさることながら、都市間輸送のための優等列車を含め列車本数がある程度確保できるよう安全対策を施し、線路設備等を整え維持管理されており、紀勢、小浜線は電化区間として電路設備も維持している路線でもあります。関西本線でさえ、京阪神近郊の一部ということで、一定の列車本数を維持し、昨年はICカード利用可能エリアとして整備されました。つまり、それなりのレベルを維持するためのランニングコストがかかる路線ということです。赤字額が大きいということは輸送サービスにかかるコストが嵩む一方、それに見合う利用実態が少ないということになるのですが、国土形成や防災、地域の交通政策上、必要最小限のインフラレベルを保った結果と考えるべきかと思います。 しかし、それによって生じる不採算状態を利益追求を旨とする民営鉄道事業者だけに押し付けるのも酷なことであり、このままでは廃線止む無しの結果しか見えません。鉄道は民間企業の単なる利益追求の手段ではありません。人の移動や物流を円滑にする公共財です。安易に廃線やバス代替の議論に走るのではなく、今回のことを契機に鉄道事業者、国、関係地方自治体、沿線住民が自分事として、広く国づくり、それぞれの地域におけるまちづくりと鉄道の役割やあり方を議論すべきだと思います。 その際、鉄道として維持すべき路線については、線路設備等インフラを国民の財産として公共が維持管理し、運行を鉄道事業者が行う上下分離方式について具体的に検討してほしいと思います。報道によると三重県知事は会見で、関西本線の維持存続に意欲を見せられたとのこと。しかし、上下分離には否定的で利用促進策によるJRでの維持を望むとのことでした。県財政への影響を考慮した発言なのでしょうが、これまでも沿線自治体等を巻き込んだ利用促進策の取り組みや利便性向上に向けた働きかけは一定なされては来ましたが、地域的な取り組みだけでは成果としては十分ではありません。また、今後も沿線地域だけで需要を大きく伸ばせる見込みは残念ながら見出せません。 今後は、京都府や沿線市町村と連携し、国を動かし、関西本線が本来有していた価値や機能を復権させるイニシアティブを、国交省出身の一見知事には是非とも取ってほしいと思います。単なる地域の移動手段としてだけではなく、国づくり、地域づくりに活かす観点を持たない限り、未来に残すことは難しいでしょう。それを実現するのは、鉄道事業者ではなく、公共がもっとしっかり関わりを強めることが求められると思います。
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