前回の投稿でも紹介しましたが、JR東海の特急用ディーゼル気動車キハ85系が今春のダイヤ改正で、高山本線の特急「ひだ」から引退し、残る紀勢本線の特急「南紀」からも6月末で引退予定とアナウンスされています。 特急「南紀」は、名古屋を起点に関西本線、伊勢鉄道線、紀勢本線を経由し、和歌山県の紀伊勝浦までを結ぶ列車で、三重県内を縦断する唯一のJRの特急列車です。起源は天王寺〜名古屋間を紀勢本線経由で結んだ特急「くろしお」(1往復)ですが、昭和53年の紀勢本線和歌山〜新宮間電化によるダイヤ改正で、「くろしお」が381系電車化されることに伴い、大半が非電化区間となった名古屋〜紀伊勝浦間にキハ82系ディーゼル気動車を用いて設定された特急列車がそれになります。ちなみに「南紀」の愛称は、天王寺〜新宮(〜亀山〜名古屋)に設定されていた普通夜行寝台列車に与えられていたもので、それを受け継ぐ形となり、普通夜行寝台については、新宮電化以降、新たに「はやたま」の愛称が与えられました。 以来、古豪キハ82系による運用が続いた「南紀」は、JR化後の1992年に新型のキハ85系に置き換わり大幅なグレードアップが図られました。眺望の良い大きな側面窓を備えていることから、その名も「ワイドビュー南紀」と呼称されました。スタイリッシュなボディに高出力を誇る強力エンジンを備え、豪華で快適な車内が自慢の車両は、現在でも十分通用する性能とサービスレベルにあると思いますが、登場から早や30数年、時代はカーボンニュートラルを志向することとなり、Co2を排出するディーゼル気動車は敬遠される存在に、また、一般国道しかなかった三重県東紀州地域にも高速道路網が形成されつつあり、「南紀」の利用者は徐々に減少しているためか、4両程度で運用されていた列車編成は遂に最短2両と非常に寂しい姿となってしまいました。 今回、キハ85系に代えて、JR東海が新たに開発したハイブリッド車両HC85系を新たに「南紀」に投入するのは、環境負荷の低減という時代の要請に応えるためと、「ひだ」とともに新型投入によるサービス向上、需要喚起を図るためと思われます。 私自身も過去、仕事で東紀州方面への出張時には、幾度となくこのキハ85系「南紀」のお世話になり、パワフルなエンジン音を奏でながら峠を駆ける姿に魅了された一人です。引退までにもう一度その乗り心地を味わいたいと思い、先日、松阪〜紀伊勝浦間を往復してきた次第です。往路では、引退前ということで平日にも関わらず、同好の士の姿も見え、列車は所定2両が1両増車の3両、対向する列車は4両と往時を偲ぶ姿を見ることができました。夕方の復路では、運よく非貫通型の名古屋寄り先頭車の最前列に陣取ることが出来、熊野灘の夕景を車窓に、初めて前面展望を楽しむことが出来ました。 車両そのものは、リニューアル工事さえすればまだまだ現役を続けられると思え引退は惜しい限りですが、これも時代の流れとあれば仕方ありません。特急「南紀」が新型に置き換わり、列車も沿線地域もこれを契機に将来へ展望を拓き、活性化することを大いに期待したいと思います。
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