津和野到着後のお楽しみは、小京都散策?もちろん、それは抜きにはできないが、まずはデゴイチのショーを見なければならない。乗客を降ろした「やまぐち号」の客車編成は復路の準備のため、デゴイチの牽引のまま一旦ホームを離れ、駅舎側の待避線に転線する。当然のことながら列車に乗車中は、走行している姿を見ることも写真を撮ることも出来ないが、入れ替え作業の小運転とはいえ編成のまま、その姿を捉えることができるのだ。そして、ショーの本番はここからである。客車を待避線に留め置くと、デゴイチは単機で駅構内を行き来し、駅の北側に設けられた転車台に向かう。その様子を駅の外から眺める。転車台の外側には見学者が見やすいように広場が設けられ、ベンチまで用意されている。まるで舞台で演じる役者を見る野外劇場のようだといえば言い過ぎだろうか。転車台で方向転換を見たい人はそちらへと車内放送でも案内があり、すでに多くの人が集まってカメラやスマホを向けていた。デゴイチは誘導係の振る手旗信号でそろりそろりと上手に乗った。大型蒸気らしく重量感のある音をたて、時折鳴らす短い汽笛が津和野の山々に響きわたるのが何とも哀愁がある。転車台を4分の1周して降りると脇に設けられた給炭、給水設備で復路の出発までしばし休息するようだ。そこでもにわかに撮影会のモデル状態となっていた。 さて、数時間の小京都散策を終え再び駅に戻ると、すでにデゴイチが客車を待避線から牽き出してホームに据え付ける作業を始めていた。この様子も駅の柵外から支障なく眺められる。長年の運行経験から、SLを余すことなく堪能できるように配慮されているのだなと嬉しく思った。 復路の出発は午後4時過ぎ、晩秋でかつ山あいを走るため、すぐに日暮れになるだろうと思い、往路では体験できなかった展望デッキに出て、開放感を感じながら走り去る景色を楽しもうと考えた。出発時、同じ思いの乗客たちでデッキは混雑していたが、うまく立ち位置を確保することができ、流れゆく景色を堪能した。5両目の最後部であるが、先頭のデゴイチの音がよく聞こえ、何より後部に流れるばい煙がよく見える。かぐわしい匂いも十分に感じる。五感で楽しむにはもってこいの場所だと思った。なにより強烈だったのは、トンネルに入ったときだ。多くの人は煙に巻かれるのを嫌がって、車内に避難したが、筆者はむしろ煙に巻かれることが本望なため、けっして動かず、思う存分ばい煙のさ中に身を置いた。少し不安もあったが、デッキに残った他の猛者と一緒に煙の香りを心ゆくまで味わうことができ満足だった。結局、そこを離れがたく復路の半分の行程をデッキに立って過ごした。 日が落ちて景色が見えにくくなって初めて自分の席に戻ったが、旧型客車の白熱グローブ灯を模した柔らかな車内灯が夜汽車のムードを醸し出していてとてもいい感じだった。 終点新山口到着はちょうど午後6時。帰りの新幹線への乗り換え時間があまりなく、後ろ髪を引かれる思いであわただしく列車を後にしたが、往路も復路も駅での時間もSL列車を味わい尽くせた良い旅だった。これはまた乗りに来ずにはいられないと心に誓った。 ※画像左=津和野駅構内の設備で休息中のデゴイチ、画僧中央=往路出発に備え客車を入れ替える様子、画像右=最後尾の展望デッキから見た走行風景 |