先月8日未明に東海地方を襲った台風18号は、山間の急峻な地形を縫うように走るJR名松線(松阪〜伊勢奥津間43.5km)に甚大な被害を与えました。軌道への土砂流出が多数起こり、復旧の可能性を探っていたJR東海は、比較的被害の少なかった松阪〜家城間を復旧させたものの、同月29日に最も被害の大きかった家城〜伊勢奥津間17.7kmを部分廃止しバス輸送に転換する方針を関係自治体等に通知しました。
この予期せぬニュースを耳にしたとき、鉄道を愛する者の一人として非常に残念な想いがしたのと同時に地方鉄道の現実を思い知らされた気がしました。 名松線は、国鉄時代にも第2次廃止対象路線となり、また昭和57年に起こった災害時も一時は復旧を断念しバス輸送とする提案がなされてきました。しかし、沿線の旧美杉村などが熱心な存続運動を展開し、地元の熱意と代替道路が未整備であったことから廃線を免れ、国鉄民営化後もJR東海に引き継がれ経営が続けられてきました。廃線の危機を幾度も乗り越え、もう心配はないだろうと誰しもが思っていた矢先の出来事でした。
廃線問題の最大の原因が台風被害であるものの、近年の利用状況は国鉄時代以上に悪く、家城〜伊勢奥津間では1日90人の利用しかなかったとのことです。悪い言い方をすれば、この実態がありながら既に沿線にはかつてのような存続運動の熱意はなく、恐らく路線活性化への取り組みも少なくなっていたのではないでしょうか。JR東海は結果として冷徹な企業の論理でこの災害を機に不採算路線を整理したいということでしょう。また、沿線自治体は平成の大合併で津市と松阪市に統合され存続運動の中心であった雲出川沿いの町や村は統合され、巨大化した自治体の中では一部地域に特化した課題は優先されにくい事情も影響していると思われます。加えて、沿線地域の少子高齢化の進展により、山の管理が行き届かず治山が疎かになっていたことも土砂被害を大きくしたと言われています。このように考えると、必ずしも自然災害だけが今回の問題を引き起こしたとは考えにくく、極めて人的な要因による部分も否定できないと思われます。
名松線のみならず、最近では九州の第三セクター鉄道であった高千穂鉄道も同様に廃線に追い込まれた事例がありますし、今後もこのようなことが起こる可能性が十分考えられます。伊賀地域を走る関西本線も今までに土砂被害で長期不通になったことがあり、激しい雨では運転が抑止されることがしばしばあります。伊賀線は昭和57年の災害で桑町駅そばの橋脚が流され長らく不通になったことがあります。社会的に不通状態が大きな影響となる幹線や都市部の鉄道ならば、需要と復旧にかける費用の均衡がとれているためこうした問題は起きないものの、地方鉄道には(特に自然災害を受けやすい路線は)こうした問題を抱える恐れが常にあることを沿線地域は認識する必要があります。 また、沿線地域がその鉄道を必要とする熱意を常に事業者に伝え、活性化に向けたテーブルを持ち続けることが重要だと思います。事前の相談なくいきなり提案を受けたとて既になす術は限られます。鉄道事業者と常に連携する環境を整えていれば、こうした不測の事態にも対応を考える余裕ができるでしょう。
今回の問題で考えさせられることは沢山あると思います。 とにもかくにも名松線の赤錆びたレールに再び列車が走り、輝きを取り戻して欲しいと願わずにはいられません。 画像=左からSL時代の給水塔が未だ残る終着駅伊勢奥津駅 現在の主力車両キハ11、線内唯一の列車交換駅である家城駅では駅員が直立不動で安全を確認する姿が見られる。 |