この数年来、5月の連休になると無性に大井川鉄道のSL列車に乗りたくなり、有無を言わさず子供達を連れて出かけていたのですが、今年は休みに用事が多くその機会に恵まれずにいました。しかし、毎年、父親のお供をするうちにすっかりその魅力に憑りつかれたのでしょうか、逆に子供達に連れて行ってほしいとせがまれ、背中を押されるように、連休過ぎのとある休みの日に行ってきました。 大井川鉄道は、この時期、新緑がとりわけ目に鮮やかで、大井川のゆったりした流れを車窓に見ながら汽車の旅をするのはとても清々しい気分になります。沿線には決して特筆すべきものがあるわけではないのですが、車窓を彩る山々、大井川の流れ、茶畑をはじめとする田園風景、農村集落等々、それらの要素が全体の景観の中で絶妙のバランスを保っています。これらを眺めれば何となくほっとする、心が癒されるような気分になる。それが、ここに日本の原風景があると言われる所以であるのかも知れません。そして、この景観の中に蒸気機関車が牽く列車が走ることこそ、正に日本の原風景を一層引き立てるアイテムであると言え、それも、妙に飾り立てられたものではなく、かつてどこにでも見られたような、普段着姿の列車であることに価値があるといえます。 加えて忘れてならないのが、SL列車の車内で受けるおもてなしです。専務車掌であるSLおじさん、おばさんの優しく暖かい口調の案内放送やお客さんのリクエストで奏でるハーモニカ演奏、懐かしい歌声などは、決して押しつけがましくなく、乗り合わせた人すべてを笑顔にさせてくれます。 私にとって、大井川鉄道の魅力は何か?挙げれば枚挙に暇がないのですが、たった一言でいうならば、「他にはない何度でも乗りに来たくなる癒しの鉄道」ということでしょうか。 そして、今回、思わぬ嬉しいプレゼントがありました。既に10数回も通っているものの一度も見ることができなかった富士山が、帰路のSL列車に乗車中、終点金谷到着直前に見ることができました。子供達にとっては初めて見る富士山の威容で、その神々しい雰囲気に圧倒された様子でした。(画像=左:列車最後部から先頭の機関車を望む。中央:タイから復員したC5644号機。タイ国鉄仕様から日本国鉄仕様に復元された。右:西武鉄道から転入した電気機関車と元南海電鉄ズームカー。大井川鉄道の魅力は、生きた鉄道博物館であるところ |