ショート・ショート
『お局様、お味方します! 〜新入社員マイちゃんのハッピー・サバイバル術〜』
「ええっ、業務能力の向上? スキルアップのための自己啓発セミナー? ――まっぴらごめんですわ、そんなの!」
新入社員のマイ(もちろん、私です!)は、オフィスのデスクで心の中でべーっと舌を出しました。せっかく苦労して入社したんですもの、これ以上頭を使ってヘトヘトになるなんてお門違いもいいところ。努力なんていう疲れる言葉は、私の辞書には最初から載っていません。
じゃあ、どうやってこの荒波のオフィスを泳ぎ切るかって? ふふん、私には私だけの、絶対に負けない「令和の処世術」があるのです!
必殺! 虎の威を借るマイちゃん
私の作戦は、いたってシンプル。 「上を制する者は、すべてを制す!」
直属の上司である課長、そしてその上の部長の前では、私はいつでも「はい! 喜んで!」の絶対服従マシーンに早変わり。白と言われたらカラスだって白に見えるし、部長のビミョーなオヤジギャグには、オフィスが揺れるほどの爆笑をプレゼントします。
さらに忘れてはならないのが、現場を牛耳る「生ける伝説」、お局のツボネさんです。
「ツボネさん、これ、出張のお土産なんですけど……あ、他のみんなには内緒ですよ? ツボネさんにだけ、どうしても食べてほしくて!」
デパ地下で仕入れた限定の高級マドレーヌをそっとデスクに忍ばせれば、ツボネさんの厳しいお顔が、みるみるうちにハチミツがとろけたような笑顔に大変身。 「あら、マイちゃん、気が利くじゃないの」
これで勝負あり。会社の「最高権力者」たちをガッチリ味方につけた私のバックには、目に見えない巨大な盾がそびえ立っているのです。
周りの雑音は「毒」でシャットアウト!
もちろん、そんな私を見て、周りの同期や先輩たちは「なによ、あの世渡り上手」なんて冷ややかな目を向けてきます。
でも、へっちゃら、へっちゃら! 大した能力もないくせに真面目ぶっている連中には、隙を見てチクリと毒を吐いて差し上げます。
「先輩、そんなに一生懸命残業して、もしかして……お家で待ってる人、いないんですかぁ?」
一瞬で先輩の顔が真っ赤になります。当然、周りからは毛嫌いされて孤立無援。だけど、それがどうしたっていうのかしら? だって私には、上司やお局様という最強の「お味方」がついているんですもの。トカゲが吠えたって、恐竜の盾があるから痛くも痒くもありません!
就業規則は、私の味方
「……あいたたた。うう、腰が……」
午後2時。私は大げさに腰を押さえて、課長にウルウルとした瞳を向けました。
「課長、実は持病の腰痛が急に悪化してしまいまして……。それに今日は、どうしてもおばあちゃんの通院に同行しなければならなくて。本当に申し訳ありませんが、午後から半休をいただいてもよろしいでしょうか?」
「おいおい、大丈夫かマイちゃん! おばあちゃんも心配だな、仕事はいいから早く帰りなさい!」
「ありがとうございます……っ!」
心の中でガッツポーズ! 実は私、会社の『就業規則』を誰よりも隅から隅まで熟読しているのです。どの権利をどう使えば、ギリギリまで会社に配慮してもらいつつ、自分が一番ラクをできるか……その計算だけは、どんな一流プログラマーよりも正確なんです。
「お先に失礼しまーす!」
オフィスを出た瞬間、私の腰痛はどこへやら。五月の爽やかな青空に向かって、思い切り背伸びをしました。
敵はたくさんいるけれど、味方はもっと強い。 明日もお菓子をポケットに忍ばせて、私のハッピーな会社員ライフは、のんびり、ちゃっかり、続いていくのです!