ショート・ショート 視察団の困惑
銀河の果てからやってきた宇宙の視察団は、地球という未開の惑星の上空で円盤を停止させていた。彼らの任務は、知的生命体の合理的行動を記録することだ。
「艦長、あそこを見てください。何かが起きています」
部下が指さした先には、巨大な箱型の建物の前に、アリの行列のような人間たちがうごめいていた。最後尾が見えないほどの長蛇の列だ。
「あれは宗教儀式か? それとも配給を待っているのか?」 「いえ、どうやら『個展』という名の、一人の人間が作ったガラクタを眺める儀式だそうです」
モニターを拡大すると、列の中の人間たちは一様に手元の光る板——スマートフォン——を凝視し、必死に指を動かしていた。
「見てください、艦長。彼らは並んでいる間中、自分がいかに『並んでいるか』を全世界に発信しています。まるで『私は今、無駄な時間を過ごす権利を手に入れた選ばれし者だ』とでも言いたげに」
艦長はため息をついた。 「理解に苦しむな。列に並ぶという苦行を自ら進んで行い、それを他者に自慢する。その通知を受け取った別の個体は、さらに羨望の念を抱いて列に加わる。これは情報の自己増殖による集団催眠の一種か?」
視察団は、その行列の先にいる「自称・先生」と呼ばれる個体に焦点を合わせた。展示室の中央で、彼は奇妙な形の石ころや、意味不明な色の汚れがついた布や光の小細工に囲まれ、うっとりと目を閉じていた。
「あの男を見てください。自分の承認欲求を『芸術』という言葉でコーティングし、並んでいる民衆の数で自分の価値を測定しています。彼にとって、作品の質はどうでもいい。どれだけの人間を不自由な行列に縛り付けたか、その支配力が快感なのです」
艦長は記録用の端末に、冷徹な文章でこう書き込んだ。
【地球人観察記録第401号】
この惑星の住民は、希少性という幻影に弱い。彼らは「列」という名の檻に自ら入り込み、その檻の中で光る板を叩き、外部に虚栄心をまき散らす。一方、その頂点に君臨する自称・表現者は、他者の時間の浪費を栄養にして自己肥大化する寄生生物の一種である。
部下が円盤の操縦レバーを握り直した。 「艦長、もう十分でしょう。この星に高度な知性を期待するのは時間の無駄です。次の銀河へ行きませんか?」
「そうだな。これ以上見ていても、我々の知能指数まで下がりそうだ」
円盤は音もなく加速し、大気圏を脱出した。 地上では、相変わらず一歩も動かない行列の中で、人間たちが「映える」角度を探して必死に自撮り(セルフィー)を繰り返していた。その頭上を、真に価値ある宇宙の神秘が、誰にも気づかれずに通り過ぎていった。